阿波山中。皇室に麻衣を調進してきた一族の話・後編 < 三木家住宅 / 徳島県美馬市木屋平 >
阿波山中。皇室に麻衣を調進してきた一族の話・前編 < 三木家住宅 / 徳島県美馬市木屋平 > 続き
四国徳島の山中に、古来より天皇が代替わりのする際に大麻(麻・アサ)の衣を調進してきた一族が暮らしています。
御殿人(みあらかんど)・三木家
世は平成末期。来たる令和元年5月1日に新しい天皇が即位され、10月22日に即位礼正殿の儀(そくいれいせいでんのぎ)、11月14・15日に践祚大嘗祭(せんそだいじょうさい)が予定されています。
その式典で着用される麻製の衣が "麁服(あらたえ)"
天皇から依頼を受けて麁服を織って納める役職を "御殿人(みあらかんど)"
御殿人を務めることができるのは、古来から麁服の調進を行ってきた 忌部(いんべ)氏直系の三木氏のみ。
南北朝の動乱により、故郷である大和を離れ 四国阿波へ渡った忌部一族。
忌部氏直系の三木家の現当主ご家族が暮らす家屋は、徳島県に現存する家屋の中で 最古の住宅と比定されるもので、17世紀頃(=江戸時代)のものという。
忌部氏の一族は、山深い木屋平(こやだいら)の地に身を潜め、中断された麁服の調進が いつか再開されることを信じて、山奥でその技法を伝承し続けた。
光明天皇の践祚大嘗祭(北朝2代 / 暦応元年 / 1338)以降途絶えていた麁服の調進が復活したのは、大正天皇の践祚大嘗祭(第123代 / 大正4年 / 1915)。実に577年もの間、その糸を連綿と紡ぎ続けて来たことになる。
麁服の調進
三木家住宅と隣接する "離れ" が資料館になっていて、阿波忌部氏やその直系である三木家の紹介、麁服を織る機械などが展示されています。
現在は美馬市木屋平となっている同地区は、元々 麻植郡(おえぐん)に所属した。
明治22年(1889) 麻植郡木屋平村 成立
昭和48年(1973) 麻植郡→美馬郡 移管
平成17年(2005) 美馬市の一部となる
"麻植(おえ)" とは書いて書いて字の如く、大麻(麻・アサ)の産地だったことに由来する。山がちで稲作に不向きだった阿波國では、藍や大麻 綿など 衣類の元となる作物を育て出荷。それを販売して得たお金で 塩や食糧を購入する生活手段が、古くから成り立っていた。
アサは成長が早く、衣服にすると軽くて丈夫。通気性が良いため、専ら軍服に用いられた。その需要から、戦前はアサの栽培が奨励されていたほどである。
しかし戦争が終わり 連合国軍の支配が始まると、アサの栽培は一転、禁止される。アサには麻薬成分が含まれているため、自国に習った措置だった。
日本産のアサ麻は麻薬成分が薄く、またそれを吸引する文化もなかったため 大きな社会問題は発生していなかったが、この禁止措置によって 麻繊維界は大きな打撃を受ける。化学繊維等 新しい衣類用素材の台頭等もあり、古来から受け継がれてきた日本のアサ文化は 戦後消滅した。
ただし 三木家のアサ栽培だけは、その歴史と伝統を重んじて 特別に許可された。
今の時期は 新天皇による一世一代の践祚大嘗祭(11月14・15日)に向けて、アサの種子を蒔いたところでしょうか。
成長が早いアサは約100日で収穫することが出来、収穫した繊維から麁服を織り調進。新しい天皇による初めての儀式に用いられる。
その栽培は容易いことではなく、大麻取締法(たいまとりしまりほう)下においては 厳格な栽培管理が求められ、防犯カメラの設置等 警備費用だけでも数千万円に上ると言う。
人間の不審行動だけでなく 数多く生息する動物からアサを守ることも求められる。ここで育てられるアサ以外に代わりの畑は無い。「鹿に食べられて出来ませんでした」では済まされない大変な任務が、御殿人(みあらかんど)なのです。
大嘗祭という国家行事に用いる聖なる衣を、三木家個人が行う事は 大変な力がいることですが、それは 御殿人たる三木家だけが成し遂げることが出来るもの。
来たる大嘗祭では、日本(にっぽん)が成立した大和政権の時代から受け継がれてきた伝統と、徳島の水と空気が育てた大麻(麻・アサ)の衣を、畏敬の念を抱きながら拝見させて頂きたいと思います。
三木家周辺は枝垂桜の名所
三木家住宅に隣接する貢公園(みつぐこうえん)
駐車場はこちらの方が広いので、三木家を見学する場合も こちらに自動車を停めて見学する方が良さそうです。
ここも桜の名所で、周辺の例と同じく 枝垂桜(しだれざくら)がたくさん植えられています。
訪問した時は 桜の散り始めで、風が吹いた時には素敵な桜吹雪を見ることができました。
三木家住宅
< 自家用車 >
高松駅から 約2時間、73km
高松空港から 約1時間40分、61km
徳島駅から 約1時間40分、58km
徳島阿波おどり空港から 約1時間50分、72km
※ 主な地点からの最速・最短距離
※ 高松・徳島 どちらからも道中に狭路が存在します。運転にはお気をつけください