日本最古のコンクリート製トンネル < 松坂隧道 / 徳島県牟岐町 >
徳島県南部、太平洋に面したエリア。八坂八浜(やさかやはま)と呼ばれる、山が海に迫った交通の難所があります。
この道は徳島から高知へ向かう土佐街道の一部であり、四国遍路も数多く往来するこの区間は、時代時代の最新技術を駆使して 道が保たれてきました。
現代は国道55号の旧道になったこちらのトンネルは、大正時代に開通した近代トンネル。資材にコンクリートが用いられていますが、同資材を用いて建設されたトンネルとしては、日本最古と言われています。
日本最古のコンクリート製トンネル
トンネル前後に「高さ3.7m制限」のゲートあり。この制限高に該当するのは大型車なので、普通の乗用車であれば 通行に全く問題はありません。
幅員は、自動車同士の離合こそ難しいものの 十分な幅が確保されていて、この時代に建設されたトンネルとしては かなりの高規格隧道です。
松坂隧道(まつさかずいどう / 徳島県牟岐町)
大正9年(1920)9月 起工
大正10年(1921)7月 竣工
当時用いられていた大型建造物の資材は「石」や「レンガ」が主流。コンクリートを用いることは、かなりの冒険です。その先進的な試みを1年足らずで成功させたことは、日本土木史に燦然と輝く功績と言えます。
記念植樹の今
完成当時に撮られた写真が 掲げられています。
これを見るに、トンネル出口(高知側)に記念植樹が行われたことがわかります。
その場所には、現在も「記念樹」の石碑が残されています。
木の位置的には 上の写真のものと見ることができますが、現在の木の大きさから 植樹から100年以上経っているようには見えず... どうでしょうか。
松坂隧道・高知側
高知側のトンネル入口
石積みの迫石(せりいし)
上部中央の要石(かなめいし)
扁額(へんがく)
笠石(かさいし)
これに、コンクリートの翼壁(よくへき)。
当時最先端の技術が用いられたことに加え、装飾も丁寧かつこだわりが感じられます。
ここまで造り込みが行われているのは 地域の希望であったことと、元主要国道の貫禄と言ったところでしょうか。
道通天地 ※右から
辛酉夏麟平
「道は天地に通ず」と読む。それまで山越えを行っていたことを考えると、トンネル内に敷かれた道は 天に続くように感じられたことでしょう。
辛酉は「かのととり」。「しんゆう」とも読みます。
「辛」は十干(じっかん)の一つ、「酉」は十二支の一つ。これらを組み合わせたものが「干支(えと)」となり、60年に一度同じ干支がやってきます。
近年の「辛酉」は、
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1921(大正10年) ※松坂隧道が竣工した年
1981(昭和56年)
2041(令和23年)
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「麟平」とは、第27代徳島県知事である大津麟平(おおつりんぺい)氏。在任期間が 大正8年(1919)4月から大正10年(1921)5月なので、これも史実と一致します。
黎明期のコンクリート資材
トンネル内部に進入してみます。延長87.5mなので、それほど長くはありません。反対側の入口が見えています。
内部の壁面に目をやるとこの通り。小石が多いのは コンクリート黎明時代のものゆえでしょうか。建造100年近く経っているトンネルを、目で見て肌で触れることができます。
松坂隧道・徳島側
徳島側のトンネル入口
翼壁が赤みがかって見えるのは、元々赤い塗装が施されていた様子。高知側がそのように見えないのは 南側で陽が当たるため、塗装がはげているものと思われます。
コンクリート製隧道としては日本最古の可能性がある松坂隧道は、平成17年に「近代土木遺産Bランク」に指定されました。名実ともに認められたことになります。
松坂隧道 ※右から
大正十年七月竣工
建造から100年近くの時が流れ、幹線としての役割は 新道に譲りましたが、往時と遜色ない輝きが 松坂隧道から感じることができます。
お遍路さんの往来も
徳島側の入口脇には小さな祠があり、
「かずら大師」と記されています。
「かずら」とはサルナシの別名で、つる植物。長く丈夫な蔓(つる)を伸ばす樹木で、祖谷のかずら橋は、同植物の蔓を用いて掛けられている。
ここでは松坂(まつさか)の山越えに際し、お遍路さんが時にはかずらを頼りに(現代はロープ) 峠を越えて行ったこともあったのでしょう。弘法大師が祀られています。
現代の八坂八浜
国道55号から松坂隧道へ分岐する地点から眺めた松坂。
松坂隧道があるのは、山の稜線に建造物がある下あたり。波が打ち寄せる浜は、サーファーの間で人気の内妻海岸(うちづまかいがん)。
松坂隧道が開通するまでは、海岸の岩場を風待ち・潮待ちして越えるか、白い建物がある背後の 松坂古道を越えるしか、道はありませんでした。
現在は昭和57年開通の内妻トンネル・同55年開通の古江トンネルが、快適な走行を実現しています。
図らずも草木に覆われつつある松坂隧道と その付近の道路。今の時期は隧道入口のアジサイが一斉に咲き、古トンネルに花を添える形になっています。
松坂隧道
< 自家用車 >
高松駅から 約2時間40分、144km
高知龍馬空港から 約2時間、79km
※ 主な地点からの最速・最短距離