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古くは参勤交代の道。江戸時代に開削された運河<奥南運河/愛媛県宇和島市>

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入り組んだリアス式海岸が広がる愛媛県南予地方。細く伸びた半島が多く、そこに暮らす人々が反対側の海へ出るためにそれを一周していたら燃料代がかかりますし、海況によっては大きな危険が伴います。そんな時に大きな助けとなるのが「運河」。半島をショートカットする水路が、南予地方にいくつか存在します。

奥南運河(おくなうんが)

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奥南橋(おくなはし/愛媛県宇和島市)

奥南と書いて「おくな」と読みます。場所は宇和島市北部。旧吉田町西部にあるこの橋。歴史は古く、大正15年(1926)には同名の橋があったことが記録されています。

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奥南橋が架かる場所は延長約400mの水路上。これは自然のものではなく「奥南運河(おくなうんが)」と呼ばれる、人工的に開削された運河。南予に存在する三つの運河の中で最も歴史が古く、江戸時代初期の寛永3年(1626)に堀切工事が行われたことが、吉田町史に記録されています。

寛永年間<1624~1645>
寛永14年(1637)には島原の乱が発生、翌年鎮圧。

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大良半島(おおらはんとう)の内側に広がる湾。右の奥に奥南運河があります。

従来、この場所から半島北部の法華津湾(ほけつわん)へ出るためには、見えている陸地に沿って左側へ時計回りに進み、岬を回る必要があった。

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奥南運河を通ることによって短縮できる距離は約8km。昔の櫓漕ぎなど非動力船の時代においては距離短縮の効果は大きく、季節風の影響や浅瀬の危険がある先端部を通らずに済むメリットは計り知れません。

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奥南橋から運河を見下ろしたところ。見えているのは南側の宇和島湾。

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こちらは北側の法華津湾。

延長...400m
幅...20m
深さ...3m

南予地方には「船越(ふなこし)」という地名を各地で見ることができますが、これは細長い半島の低くなっている部分を、人力で舟を担いで反対側へ運ぶ場所だった名残。そのような場所がいくつもあった証です。

もう少し時代が進んだところで重要航路と認められた場所が運河開削となるわけですが、これは世界共通。地峡(ちきょう)となる部分が開削されるのは、パナマ運河、スエズ運河然り。世界共通のようです。

奥南航路

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「奥南航路」と掲げられている、奥南運河。

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南側から漁船がやってきました。

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南から北へ、運河を駆け抜けて行きます。

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あっと言う間に北側の法華津湾へ出て行きました。これが半島を迂回してとなると、相当な労力です。

運河水面により近づいて

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奥南橋を下から眺めるために、近くの坂を下って運河水面に近付いてみます。

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橋を下から見上げたところ。

「満潮面桁下9M」
この時は干潮時間帯で水面が低く橋がより高く見えますが、満潮だとその高さが変わります。大潮の満潮時は少し窮屈に見えることでしょう。逆に大潮の干潮時は少し大きな船だったら船底を擦る可能性があります。

江戸時代に開削された奥南運河と言っても、昔は干潮時に干潟が出現したり不安定だったようです。航路として確立されたのは、大正時代に当地出身の山下亀三郎という人物の後援によるもの。戦後、奥南運河は国の開発保全航路に指定。定期的な浚渫(しゅんせつ)工事によって運河の維持管理が行われています。

浚渫(しゅんせつ)...水域の底面を浚(さら)って、土砂などを取り除く工事

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せっかく運河の水面に近付いたので、水の中を覗いて見ました。

岸壁に小魚が群れています。
リアス式海岸のため水深がある宇和海は水産資源の宝庫。特に頻繁に潮が入れ替わる運河周辺はプランクトンが豊富で、小魚にとって絶好の棲家。それを追っかけて大型魚類も集まって来る好循環。釣り人にとっては天国のようなエリアです。

お殿様御用達の運河航路

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奥南運河から離れて、南側の港をおさんぽ。

奥に建物が多く見える街がありますが、あちらが宇和島市街。伊達家ゆかりの城下町で、奥南運河は参勤交代の道(航路)としても利用されたことが記録されています。

右の大きな山は九島(くしま)。平成28年(2016)4月、全長468mの九島大橋の完成によって四国本土と繋がりました。
九島は宇和島湾内、市街地の向かいに立ちはだかる形で位置。これによって冬に吹く西からの季節風を遮り、自然の要害として宇和島城下を守っています。

奥南運河

< 自家用車 >
高松駅から 約3時間10分、234km
松山空港から 約1時間30分、85km

※ 主な地点からの最速・最短距離

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この記事を書いた人

野瀬 章史
野瀬 章史/ゲストハウスそらうみ 四国八十八ヶ所霊場会公認先達 法名・照山の僧籍

四国高松でゲストハウスそらうみを運営する傍ら、四国八十八ヶ所霊場会公認先達として、お遍路さんの案内を務める。法名・照山(しょうざん)の僧籍も持つ。趣味はバイクツーリング、カヌー、登山、鉄道、料理など。日本の全離島・全地点を隅々まで回るべく、愛犬しょうとの日本一周旅の途上。