山中に佇む巨大な古刹・後編<龍澤寺/愛媛県西予市城川町>
山中に佇む巨大な古刹・前編<龍澤寺/愛媛県西予市城川町> 続き
愛媛県南部・南予地方(なんよちほう)、そのまた山奥の「奥伊予(おくいよ)」と呼ばれるエリアにある巨大寺院・龍澤寺(りゅうたくじ)。厳かな禅宗寺院らしく、仏殿へ行くまでの間にも教訓がいくつも示されています。
曹洞宗の伝統様式を踏襲する伽藍配置
階段を上がり切って「中雀門(ちゅうじゃくもん)」をくぐったところで、仏さまが祀られている本堂が姿を現します。
七堂伽藍(しちどうがらん)を備えた境内は格式の高さの現れ。愛媛の山奥、奥伊予エリアにこれほどの規模の寺院があることに驚愕します。
門の頭上、欄間部分には龍澤寺お決まり「丸に十」の紋。
(仏さまから見て)左・「庫院」
「くいん」と読みます。庫裡(くり)とも。修行僧や仏さまにお供えする食事を作る場所であり、寝泊まりする宿坊、その他寺院の事務を執り行う場所。
(仏さまから見て)右・「禅堂」
「ぜんどう」と読みます。雲水(うんすい)と呼ばれる禅の修行僧が修行に明け暮れる空間です。「選仏場(せんぶつじょう)」とも。
禅堂が建てられた文政6年は西暦1823年。同年、ドイツ人シーボルトがオランダ商館員として来日しています。
中雀門から左右対称の建物があり、それらが回廊で繋がる配置は曹洞宗(そうとうしゅう)ならではの形式。
福井県にある曹洞宗総本山の永平寺(えいへいじ)や、同じ南予エリア・内子町にある高昌寺(こうしょうじ)も同様の配置となっています。
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回廊には昔使われていたであろう、古い鬼瓦が展示されていました。その紋はやはり「丸に十」です。
禹門山龍澤寺(うもんざんりゅうたくじ)
回廊を通り過ぎて本堂へ向かいます。
享和3年は西暦1803年。禅堂が建てられた年よりも、更に20年古い。
ここで再び登場するのが島津氏の末裔「仲翁守邦禅師(ちゅうおうしゅほうぜんじ)」
師が来られる以前、寺の名前は「龍天寺」と言って別の場所にあったそうです。
ある日師の枕元に龍が現れ、
「お寺の場所を替えて欲しい、場所を替えてくれた暁には 一切の水災から寺を守る」
と告げた。お寺は現在の場所へ移り、現在の寺号である「龍澤寺(りゅうたくじ)」に改められたそうです。
※龍は日本においては雷雲を呼び雨を降らせる神様
本堂入口
屋根に目をやるとここにも勿論「丸に十」
こちらの部分は金ぴかです。
香炉にもどどーんと「丸に十」
「山門禹(うもんざん)」の扁額を眺めつつ、戸を開けて中へ入らせて頂きます。
「殿皇覚(かくおうでん)」
「覚皇」「覚王」
どちらも「かくおう」と読みますが、ブッダの尊称。釈迦如来、お釈迦様の事です。その御方がいらっしゃる場所=殿(御殿、ごてん)という意味。
禅宗で中心に祀られる仏さまは釈迦如来と決まっていて「左に阿弥陀如来、右に弥勒菩薩」の形が一般的。
こちらでは、
「南無釈迦牟尼佛(なむしゃかむにぶつ)」
と唱えてお参りします。
島津家と皇族
参拝を終えて本堂から出てきました。大勢の参拝客で賑わう場所ではなく、禅宗独特の凛とした空気になんか背筋がピンと伸びる程よい緊張感が漂う。
どの角度から眺めても厳かで美しく、巨大。
中庭地面にあった「丸に十字」の紋。
焼き印なのか掘り返したものかは確認しなかったのですが、とにかく島津色を色んな所で見ることができます。
瓦にびっしり「丸に十」
龍澤寺に来たら、この島津一色を味わって欲しいと思います。
島津家と言えば、鎌倉時代以降 江戸幕府が幕を閉じるまで700年に渡って同じ土地を支配し続けた、世界的にも稀な氏族。
「島津に暗君なし」
と称えられたように、歴代当主は有能な人物が多く、その血脈を長きにわたって守り通すことができた。
幕末には薩摩から西郷隆盛や大久保利通らの志士を多く輩出。長州と並んで明治維新の大きな原動力となった。
上皇陛下の実母である「香淳皇后(こうじゅんこうごう)」の母「俔子王妃(ちかこおうひ)」の父は、島津家第32代当主である「島津忠義(しまづただよし)」。上皇陛下から見て曾祖父にあたり、すなわち現在の天皇家には薩摩藩士の血が受け継がれていると言えます。
また上皇陛下の妹であり第5皇女である「清宮貴子内親王(すがのみやたかこないしんのう)」は島津家に嫁いでいる等、島津氏と皇室との関係は非常に深いものとなっています。
名刹を後にして
拱北之古道場(きょうほくのふるどうじょう)は、
時空を超えて島津家の繁栄を窺い知ることができる、古き良き名刹。
予約すれば座禅修行に法話、精進料理を頂くことができるそうなので、この独特の空気感の中でそれらの体験もして頂きたいと思います。
龍澤寺
< 自家用車 >
高松駅から 約3時間、219km
松山空港から 約1時間30分、77km
※ 主な地点からの最速・最短距離